④人工呼吸器装着による合併症は?病態から理解する看護のポイント

人工呼吸器看護

人工呼吸器は命を救う機械ですが、装着しているだけでさまざまな合併症が起こりえます。「なぜその合併症が起きるのか」を病態から理解していると、予防的なケアや観察ポイントが自然と見えてきます。

🫁 呼吸器系の合併症

① VAP(人工呼吸器関連肺炎)

VAPは人工呼吸管理中に最も多く、かつ死亡率を高める重大な合併症です。挿管後48時間以降に発症した肺炎をVAPといいます。

【病態】
気管チューブが口から気管に入ることで、本来は閉じているはずの声門が常に開いた状態になります。チューブのカフ(空気を入れて膨らませる部分)の上には、口腔内細菌を含む分泌物が溜まり続けます。この分泌物がカフの隙間から少しずつ気管・肺へ垂れ込むことで、細菌性肺炎が引き起こされます(マイクロアスピレーション)。

また、挿管中は患者さんが口で呼吸できないため口腔内が乾燥し、細菌が繁殖しやすい環境になります。口腔ケアを怠ると数時間で口腔内の細菌叢が一変するといわれています。

【看護ポイント:VAPバンドル】

  • 口腔ケアを4〜6時間ごとに実施:歯ブラシ+吸引機能付きスポンジブラシで汚染物を取り除く
  • 頭部挙上30〜45度を維持:仰臥位では胃内容物の逆流・誤嚥リスクが高まる。禁忌がない限り必ずギャッジアップ
  • カフ圧を適正に保つ(20〜30cmH₂O):低すぎるとリークで細菌が入り込む。高すぎると気管粘膜の虚血・壊死を招く
  • 声門下吸引:カフ上に溜まった分泌物を専用チューブで吸引する。VAPの発症を有意に減らすことが示されている
  • 手洗い・無菌操作の徹底:吸引操作はとくに清潔操作で行う

② VILI(人工呼吸器誘発肺傷害)

健康な肺なら問題ない「陽圧の換気」でも、傷んだ肺には大きなダメージを与えることがあります。これがVILI(Ventilator-Induced Lung Injury)です。

【病態:4種類のトラウマ】

種類原因メカニズム
バロトラウマ(気圧外傷)過度な気道内圧肺胞が圧力に耐えられず破裂→気胸・縦隔気腫
ボロトラウマ(容量外傷)過大な1回換気量肺胞が過伸展→上皮細胞の損傷・炎症
アテレクトラウマ(虚脱外傷)PEEPが低すぎる肺胞が吸気で開いて呼気でつぶれる繰り返し→ずり応力で傷つく
バイオトラウマ(生物学的外傷)上記3つの積み重ね肺の炎症が全身に波及→多臓器不全へ進展

【看護ポイント】

  • 気道内圧の上限アラームに注意し、プラトー圧が30cmH₂O以下になるよう管理
  • ARDSでは1回換気量6mL/kg(理想体重)の肺保護換気が基本
  • 突然の気道内圧上昇→気胸の可能性あり。すぐに報告

③ 気胸・緊張性気胸

【病態】
バロトラウマなどで肺胞が破裂すると、空気が胸腔内に漏れ出して気胸になります。さらに空気が一方向に流れ込み続けると緊張性気胸となり、心臓や大血管が圧迫されて急激に循環が破綻します。非常に緊急性の高い状態です。

【観察ポイント】

  • 呼吸音の左右差(傷側で減弱・消失)
  • 突然の気道内圧上昇・SpO₂低下
  • 頸静脈怒張・気管の偏位(緊張性気胸のサイン)
  • 急激な血圧低下・頻脈

💡 緊張性気胸は数分で心停止に至ることがあります。上記のサインを見つけたらすぐに医師を呼んでください。

④ 無気肺(肺の虚脱)

【病態】
人工呼吸中は患者さん自身が深呼吸をしないため、末梢の肺胞がつぶれやすくなります(無気肺)。とくに仰臥位が続く背側の肺で起きやすく、そこに痰が溜まると酸素化がさらに悪化します。

【看護ポイント】

  • 定期的な体位変換(2時間ごと)で背側の無気肺を予防
  • 適切な吸引で痰を除去(ただし頻繁すぎる吸引は粘膜を傷つける)
  • ARDSでは腹臥位(うつぶせ)療法が無気肺改善・酸素化改善に有効

🫀 循環器系の合併症

ここが盲点になりがちです。人工呼吸器は「肺の管理」と思われがちですが、陽圧換気は心臓・血管にも大きな影響を与えます

⑤ 心拍出量の低下・低血圧

【病態】
自発呼吸と人工呼吸では、胸の中の圧力の変化が正反対です。

  • 自発呼吸:息を吸うとき胸腔内圧が陰圧(マイナス)になる→静脈血が心臓に引き込まれる(前負荷が上がる)
  • 人工呼吸(陽圧換気):息を送り込むとき胸腔内圧が陽圧(プラス)になる→心臓・大静脈が外から圧迫される→静脈血が心臓に戻りにくくなる(前負荷が下がる)

前負荷が下がる=心臓に入ってくる血液量が減る=心拍出量が低下する、ということです。これに加えて高PEEPの設定だとさらに圧迫が強まるため、循環への影響が大きくなります。

とくに脱水・出血・敗血症で循環血液量が少ない患者さんではこの影響を受けやすく、人工呼吸器を開始した直後に血圧が下がることがあります。

【観察ポイント】

  • 人工呼吸開始・PEEPを上げた後の血圧変化に注意
  • 収縮期血圧の吸気・呼気の差(脈圧変動:PPV)が大きいとき→循環血液量が不足しているサイン
  • 尿量の低下(腎灌流が落ちているサイン)
  • 四肢の冷感・末梢のCRT(毛細血管再充満時間)延長

⑥ 右心負荷の増大(急性肺性心)

【病態】
高いPEEPや過大な換気圧で肺血管が圧迫されると、右心室が肺に血液を送り出すための抵抗(肺血管抵抗)が上がります。右心室はもともと低い圧力で動く心室なので、抵抗が上がると急に疲弊し、右心不全(急性肺性心)を起こすことがあります。

【観察ポイント】

  • 頸静脈の怒張(右心が送り出せず、静脈に血液が溜まるサイン)
  • 下肢浮腫の悪化
  • 心エコーや中心静脈圧(CVP)の上昇

⑦ DVT(深部静脈血栓症)・肺塞栓

【病態】
長期臥床・安静・脱水が重なると、下肢の静脈で血の流れが滞り、血栓が形成されます(DVT)。血栓の一部がはがれて血流に乗り、肺動脈を詰まらせると肺塞栓(PE)となります。肺塞栓は右心への急激な後負荷上昇→心停止につながる致死的な合併症です。

【看護ポイント】

  • 弾性ストッキングの装着(下肢の静脈うっ滞を予防)
  • 間欠的空気圧迫法(フットポンプ)の使用
  • 下肢の発赤・腫脹・熱感・把握痛を定期的に観察
  • 可能な限り早期から理学療法士と連携した離床・下肢運動を行う
  • 突然のSpO₂低下+頻脈→肺塞栓を疑って即報告

🫃 消化器系の合併症

⑧ ストレス潰瘍・消化管出血

【病態】
重症患者さんは強いストレス状態(侵襲)にさらされており、交感神経が過剰に活性化します。交感神経優位になると胃粘膜への血流が低下し、胃酸に対する防御機構が弱まります。さらに鎮静薬・ステロイドなどの薬剤も胃粘膜を傷つけます。

これにより胃・十二指腸粘膜がびらん・潰瘍を起こし、吐血・下血・胃管からの血性排液として現れます。人工呼吸管理48時間以上の患者さんはとくにリスクが高いとされています。

【看護ポイント】

  • 胃管排液の性状・色調を観察(コーヒー残渣様・血性になったらすぐ報告)
  • PPI(プロトンポンプ阻害薬)やH₂ブロッカーの予防投与が行われているか確認
  • 可能であれば早期経腸栄養を開始(腸管粘膜を保護し、腸内細菌叢のバランスを保つ)

⑨ 腸管蠕動低下・麻痺性イレウス

【病態】
ICUの患者さんは、鎮静薬(オピオイド・ベンゾジアゼピン系)の影響・交感神経優位の状態・長期臥床などが重なり、腸管の動きが著しく低下します。腸管が動かなくなると麻痺性イレウスとなり、腸内の細菌が異常増殖して腸管壁から全身に移行する「バクテリアルトランスロケーション」が起き、敗血症が悪化することもあります。

【観察ポイント・看護ポイント】

  • 腹部膨満・腸蠕動音の減弱・消失を定期的に確認(聴診・触診)
  • 排便・排ガスの有無を毎日確認する
  • 経腸栄養の開始・継続が腸管蠕動を促す(腸を動かすことが最大の予防)
  • 胃残量(GRV)が多い場合は経腸栄養の速度調整が必要

⑩ 腎機能障害

【病態】
陽圧換気による心拍出量の低下・腎静脈圧の上昇が腎血流を低下させます。また人工呼吸自体が抗利尿ホルモン(ADH)の分泌を促進するため、体液が貯留しやすくなります(水分バランスが崩れる)。重症患者では急性腎障害(AKI)が起こりやすく、腎代替療法(CRRT)が必要になることもあります。

【観察ポイント】

  • 時間尿量の変化(0.5mL/kg/h未満が続くとAKIのサイン)
  • IN/OUTバランス(水分貯留の傾向がないか)
  • 血液データ:BUN・クレアチニンの上昇

💪 筋骨格・神経系の合併症

⑪ ICU-AW(ICU獲得性筋力低下)

【病態】
長期間の安静・鎮静・人工呼吸管理によって、全身の筋肉が急速に萎縮します。ICU患者は1日あたり約1〜1.5%の筋力を失うともいわれており、1週間で10%以上の筋力低下が起きることも。これがICU-AWです。

とくに横隔膜は人工呼吸器が換気を代行するため、使わない状態が続くと横隔膜萎縮(VID:人工呼吸器誘発横隔膜機能障害)が進行します。これが人工呼吸器からの離脱(ウィーニング)を困難にする大きな原因になります。

【看護ポイント】

  • 早期離床・早期リハビリ:意識があり循環が安定していれば、人工呼吸中でも端坐位・立位・歩行訓練が可能
  • SAT(自発覚醒トライアル):鎮静薬を一時的に中断して覚醒度を評価。毎日実施することでICU-AWを減らせる
  • SBT(自発呼吸トライアル):人工呼吸のサポートを最小限にして自力呼吸を評価。ウィーニングの判断に使う
  • 適切な栄養管理(筋肉の材料となるタンパク質の補給)

⑫ ICUせん妄

【病態】
ICU入室患者の50〜80%にせん妄が起きるといわれています。人工呼吸管理中は特に発症リスクが高く、睡眠障害・鎮静薬の影響・低酸素・感覚遮断・疼痛・拘束感などが複合的に重なって起こります。

せん妄は単なる「混乱」ではなく、脳の急性機能不全です。適切に対処しないと在院日数・死亡率の増加、長期的な認知機能低下(PICS)につながります。

【観察・看護ポイント】

  • CAM-ICUなどのツールで毎日せん妄の評価を行う
  • 昼夜のリズムをつける(日中は照明を明るく、夜間は暗く・静かに)
  • 時間・場所・状況を繰り返し説明する(見当識の維持)
  • 家族の面会・声かけを積極的に促す
  • 鎮静は「浅く・最小限に」。疼痛管理を優先して過剰な鎮静を避ける(ABCDEFGバンドルに沿った管理)

🩹 その他の合併症

⑬ 気管損傷・喉頭浮腫

気管チューブが気管壁・声帯・喉頭に長時間接触し続けることで、粘膜の虚血・潰瘍・肉芽形成が起きます。抜管後に喉頭浮腫による気道狭窄(抜管後喘鳴)が起きることもあり、再挿管が必要になる場合があります。

長期挿管では気管軟化症(気管壁が柔らかくなる)気管食道瘻(気管と食道の間に穴が開く)といった重篤な合併症に至ることもあります。カフ圧管理が予防の基本です。

⑭ 皮膚障害・褥瘡

NPPVのマスクによる顔面の圧迫(とくに鼻根部)は皮膚潰瘍を起こしやすく、適切なサイズのマスク選択とクッション材の使用が必要です。また長期臥床患者では仙骨・踵などに褥瘡が生じやすく、体位変換・除圧マットレス・皮膚の観察が欠かせません。

まとめ:合併症を一覧で整理しよう

系統合併症主な予防・観察ポイント
呼吸器VAP口腔ケア・頭部挙上・カフ圧管理
VILI肺保護換気(低容量・適切PEEP)
気胸呼吸音左右差・急激な気道内圧上昇
無気肺体位変換・吸引・腹臥位療法
循環器心拍出量低下・低血圧PEEP上昇後の血圧・尿量変化に注意
右心負荷増大頸静脈怒張・CVP上昇
DVT・肺塞栓弾性ストッキング・早期離床
消化器・腎ストレス潰瘍・消化管出血胃管排液の性状・PPI投与確認
腸管麻痺・イレウス腸蠕動音・排便確認・早期経腸栄養
腎機能障害時間尿量・IN/OUTバランス・血液データ
筋骨格・神経ICU-AW(筋力低下)早期リハビリ・SAT/SBT実施
ICUせん妄CAM-ICU評価・昼夜リズム・浅い鎮静
その他気管損傷・褥瘡・皮膚障害カフ圧管理・体位変換・マスクフィット

次の記事では、人工呼吸器装着中に看護師が何を観察すべきかを詳しく解説します。


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